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さ さ や か な 幸 せ と 専 門 性

(1) ロビーにある大きな水槽の中で、地元の夏祭りで買って来た金魚が
泳いでいる。

毎朝、小分けして紙に包まれた餌を職員室に取りに来る女性がいる。
水槽の中の金魚達は、餌が落ちる前に彼女の手元に寄って来る。

パラパラパラと朝ご飯。
「ホラ、食べてる。おいしいって言って食べてるよ!」
『良かったねえ、お腹すいてたんだねえ』と職員が声をかける。


(2) 今日のお昼はカレーライス。なぜか何回食べても皆の大好物。
私の向かいの席のTさん。スプーンでカレーを一口ほおばり、ニッコリ。

『うまい?』と聞くと、うんうんと頷き、スプーンを持った手を
突き出して、「お前も早く食べてみろ」と伝えてくる。

Tさんが見守る中、私もカレーをすくい口に入れる。
『うまい』と目で伝える。
うまいを共有し、頷きあいながら食べる。

今度はTさんの隣のNさんが、厨房の方を指差す。
「あの人たちが作ったんだ。上手なんだぞ料理が」と身振り手振りで
自慢げに解説する。

こちらを見ていた厨房の人に、『みんなおいしいって言ってますよ』と
目で伝えると、ニッコリ笑って頭を下げていた。

(3) 命は、皆、必ず、一回だけ尽きる。

入院中の彼女を見舞った。呼吸が苦しそうだった。
掛ける言葉も途切れがちになった。

『じゃあ又ね』と病室を出ようとすると、「先生も風邪引かないように
気をつけてね。来てくれてありがとうね。」と笑顔での言葉を貰った。

これが彼女とのお別れの会話となった。
週に一度、彼女は一人で近くのスーパーにおやつを買いに行く。

帰りにいつもの公園に寄り道し、誰もいないブランコに腰掛け、
袋からアンパンを一つ取り出す。

ゆっくりとブランコを揺らせながら、おやつを楽しんでいる、
彼女の穏やかな表情がとても素敵だった。

私は、人が、日々の生活を続けていく上で、大きい目標を掲げること
などは、あまり必要ではないと考えています。

『生きる』こと、『生きつづける』こと自体が、すでにとても大きい、
難しい事業であると思えるからです。

今日一日の生活の中で、一回でも、ひとときでも、良かった・嬉しい・
美味しい・がんばった・我慢できた・びっくりした、
そんな幸せを見つけたいし、お互いに感じ合いたい。

その為には、『ささやかな幸せ』を、拾い上げ、作り、ライトを当てる
などの視点や感受性を、チームとして持ち続けることが大切な事になる
と思います。

この仕事の『専門性』って、こんなことを指すのではないかと
思っています。
  理事長 彦坂健一郎

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